少年期に見た長い悪夢を映像化したようなホラー映画「ファンタズム」。私、血みどろ監督深沢が、多感な少年期に観たこの映画を、当時の印象のまま解説したいと思います。
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不安を煽る不可思議なイメージが普通につながる
両親を亡くした孤独な少年が、不気味な葬儀屋トールマンの秘密を探るべく度々霊園に忍び込み、数々の恐ろしくも不可解な出来事を体験する。
空中を飛び回り人を襲う刃物仕込みの鉄球、頭巾を被った凶暴な小人、男を平然と刺し殺す妖しい美女、そして切断された指から黄色い血を流すトールマンと、巨大なハエに変身するその指等々、一見脈絡無い悪夢のようなイメージが、ちゃんと繋がって普通に物語が進行します。
後で思い出すとデタラメな展開なのに、その時は普通に受け入れて気付かない、まさにそんな悪夢そのもののようなホラー映画でした。
当時の大人の評判は微妙・・・
映画誌などに載っていた当時の評論家の評価は軒並み低めでしたね。脈絡無いイメージの継ぎはぎ、リアリティに欠ける絵空事、というような意見が多かった、と記憶しています。40点~60点くらいの採点だったと思います。
少年期の心に焼き付くイメージの数々
そんな大人の意見を先に読んでしまい、先入観を持って鑑賞し始めた当時少年の私でしたが、気付けば引き込まれてましたね。
数々の奇怪なイメージとともに妙に心に残る映画でした。観ている間常に不安感がつきまとい、印象はまさに悪夢の再現。
今でも悪夢を描いた映画と言えば、エルム街より先にこの「ファンタズム」が思い浮かびます。
野暮ですが、どうしても引っかかること
作品全体が不安定、不確定な世界観で描かれるこの「ファンタズム」で細かいツッコミは意味をなさないとは思いますが、どうしても引っかかる点があります。
全ての出来事は主人公の少年の悪夢だったのか?あるいは現実だったのか?そこは判然としませんが、この構成だと「悪夢だった」の選択肢が無いような気が・・・
だって主人公が全く関知しない、他の登場人物だけで展開する重要なシーンが多数存在しちゃってるから・・・
この、夢だったのか否か?という判断、この作品自体では観る者に委ねても構いません。でも続編を製作する場合はどちらかに確定しなければ先へ進めませんよね。だってそれによって主要登場人物の生き死にが入れ替わってしまいますから。
続編ではどちらだったのか確定していますが、結果、また矛盾が・・・トールマンも小人も実在してるから現実?でもトールマンに殺されたはずの人が生きてるから、やっぱ夢?
・・・まあ、いいや。そこはドン・コスカレリ監督が納得していれば。彼の極めて個人的イメージの世界ですから(本作は監督の見た悪夢の映像化、と言われています)。
羨ましいぞ、ドン・コスカレリ監督
「ファンタズム」では、製作・監督・脚本・撮影・編集と、要はほとんど全部自分でやっちゃってるドン・コスカレリ監督。当時彼は、お金持ちのお父さんが出してくれる資金で自由な映画作りをしていた趣味の映画人です。「ファンタズム」で描かれる世界観やイメージの自由度も、背景を知れば納得です。
まさかのシリーズ化
「ファンタズム」は少年期の悪夢の世界を具現化した作品として、これ1本で完結していたと思います。ところが9年後の1988年、まさかの続編が完成!しかも前作のラストからダイレクトにつながる本当に続きの映画化。主人公マイケルこそ別の俳優に交代しましたが、他の主要メンバーは続投。悪夢の世界はそのままに、時代にマッチした特殊メイクによるスプラッターな見せ場満載のエンターテインメントに成長!
いやあ、驚き、そして興奮しましたね。この続編は大好きなホラー映画です。
更に5年後、主人公にオリジナルのマイケル・ボールドウィンが復帰して3作目も登場し、まさかの長期シリーズ化。1作目で死んで既にこの世の者でない登場人物も含め、みんな順調に老けて行きましたな。まあ、それも風情。
そして2016年、ついに5作目「ファンタズムⅤ ザ・ファイナル」が完成、シリーズは完結するわけですが、これが遺作となった89歳のトールマン、アンガス・スクリムが最後までこの役を演じ切ったことに感動。
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