殺されたマッチョがゾンビとなって甦り、バットで悪人どもを殴り殺して行くだけ!とても分かりやすい復讐劇。80年代ゾンビ映画の特徴であるスプラッターを盛り込めそうな殺人場面でことごとくツボを外しまくる!時を経て今観ると、その雑過ぎる演出が新鮮な底抜けホラー!
スポンサードリンクざっくり解説「ゾンビナイトメア」はこんな映画だ!
「ゾンビナイトメア」(原題・ZOMBIE NIGHTMARE)
1986年 アメリカ 83分(日本版VHS収録時間)
監督 ジャック・ブラフマン 主演 ジョン・マイケル・ソアー
無軌道な若者たちに命を奪われた好青年が、ブードゥー教の秘術で甦り、バット片手に復讐を果たして行きます。
ゾンビが1人しか登場しない、リベンジもののゾンビ・ホラー映画。
ゾンビ化する野球青年を、へヴィメタル・ヴォーカリストでボディビルダーのジョン・マイケル・ソアーが演じています。ただし、ソアーが顔と立派なマッチョ・ボディを見せるのは、前半登場してすぐ死ぬまでの短い間だけ。ゾンビ化後はスッポリ被るタイプのゴムマスクとパーカーで顔も身体も隠してます。早い話が中は別人。筋肉も明らかに減ってます。
襲う側のゾンビが善人、襲われる側の若者たちが同情の余地も無い悪人。
なので観客がゾンビ側を応援してしまい怖くならない、というホラー映画として構造的に問題のある作品。
「ゾンビナイトメア」ストーリー
無軌道な若者たちに目の前で父親を殺された野球少年。成長してマッチョな野球青年になった彼もまた、無軌道な若者たちの運転する暴走車に撥ねられ無念の死を遂げます。青年君が不用意に車道へ出たためのようにも見えますが、まあ前方不注意で若者たちが悪いです。
その後ブードゥー教の呪術により甦った青年は、生前愛用のバットを片手に、轢き逃げ犯の若者たちを次々と血祭りに上げて回るのでした。
そんなマッチョ・ゾンビ青年の前に、昔父親を殺害した犯人が現れます。
「ゾンビナイトメア」ここが見どころ!
とにかく作りが雑で手抜きっぽいゾンビ映画。
見どころ、正直言ってあんまり無いんですが、見方によってはいろいろ凄いです。
80年代のゾンビ・ホラーで、人も一杯殺されまくるこのストーリー。復讐劇は観客の興味を引きやすいジャンルな上、被害者がゾンビ化しての復讐なら「ロボコップ」的な面白さを引き出すことも可能だったはず。
なのに何でこんなに見どころに乏しいの?・・・ってところが見どころですかね。
とにかく全編雑な演出で、ホラーとしてのツボを外しまくります。
ツボ外しポイント① 殺す順番が雑
こういう復讐劇って、普通、ザコから順番に殺して行って、最も腹立たしい悪者との対決をクライマックスに残すもんじゃないですか。
それが割と前半で一番悪そうで嫌な奴をアッサリ殺しちゃうもんだから、後半の殺戮がまるで消化試合です。
ツボ外しポイント② 殺し方も雑
80年代のホラー映画、特にゾンビものと言えば、当時最先端の特殊メイクによる残酷描写が重要なお楽しみポイント。刃物で切る、刺す、切断する、あるいは銃撃で吹き飛ばす、等々。
なのに何故だか残酷な見せ場が全然無い!せっかく大勢死ぬのに!
まず主な凶器がバットなんです。なので殴るだけ。しかもオフスクリーン処理。つまり、ゾンビが画面の外へ向けてバットを振り下ろすと、次のカットで血の付いた悪人が倒れているだけという・・・
バットを胴体に突き刺す場面も、お腹にバットを押し当ててるだけです。背中を突き破って血みどろ内臓まみれのバットが飛び出す!とか全然ありません。私なら絶対やっちゃう!
あと、素手で殺すことも多いんですが、首をクイッと曲げるだけ、とか、頭をつかんで窓ガラスにエイッ、とぶつけるだけ、とか、スプラッターファンにはガッカリな殺害方法の連続です。
その見せ方も、背後からゾンビが近付き悪ガキを捕まえて殺すまでを、全体の状況が分かりやすい、広い画面サイズのワンカットで撮ってしまいます。カット割りやカメラワークによるサスペンス演出などは皆無です。
ツボ外しポイント③ ゾンビメイクも雑
最初にゾンビとなって甦る場面では、塗りのメークと白目のコンタクトで良い感じ。
次に登場した際にはスッポリ被るタイプのゾンビマスク着用。でも狂暴そうな表情とボサボサの長髪がまあまあカッコ良い。
問題はそれ以降。ガイコツ風のブカブカっぽいゴムマスクに代わり、なぜか髪型も短髪になります。元アリスの堀内孝雄に似ています。
ゴムのお面に表情は無いです。最初の塗りとコンタクトだけの方が迫力ありますが、主役のソアーを代役で済ませたかったのでしょうかね?ギャラ節約のために。
ツボ外しポイント④ 「死霊のはらわた」風ゾンビ崩壊の特撮が雑
「死霊のはらわた」のように、ゾンビが崩壊して滅びる描写がこの「ゾンビナイトメア」にもあります!
本家ではゾンビの身体が崩れる様をクレイアニメで徹底的に見せてましたが・・・
それを「ゾンビナイトメア」では凄くお手軽に再現!
役者さんが脱いだ空っぽのゾンビマスク。この中にスタッフが手を突っ込んで動かします。ハンドパペットみたいに。で、中から煙を送り出します。
するとどうでしょう!ゾンビが煙を吐き出しながらもがき苦しんでいるように・・・
見えません。
眼窩には目玉も何も無く、口には歯も舌も無し。もう中が空洞なのは明らか。空っぽのゴムマスクから煙がモクモク出て来るだけにしか見えません。
せめて人形用の目玉くらい用意してはめ込んで欲しいところ。たいした手間じゃないし。
ツボ外しポイント⑤ そもそも設定がホラーとして根本的にダメ
映画開始早々、感情移入出来る主人公がゾンビになってしまいます。人間性ゼロ。以降、主人公は知性の無い獣のようなモンスターで、襲う側の存在。
一方、襲われる側は人間の屑のような轢き逃げ犯の若者たち。同情の余地もありません。
結果、観客は哀れなゾンビ側を応援する形になり「ロボコップ」的構図になります。
なので、モンスターの殺戮を見せるホラーなのに、ちっとも怖くありません。殺されるのは死んだ方が良い奴らばかりだからです。
こういう場合、例えば襲われる側の悪人の中に、たまたま事件に加担してしまったけど本当は悪くないような、感情移入出来るキャラを作っておかなきゃダメでしょ。
しかも、ウガウガうなって人を殺すだけのゾンビに、ロボコップのような復讐のヒーロー的魅力も無いんですよね。
そこが弱い!復讐劇として盛り上げるために、例えばちょっと知性を残すとか、何かやりようがあったはず。
でも最後に見どころが!(ネタばれ注意)
以上、ホラーファンの期待を裏切り続けるこの作品、最後の最後にグッとくる展開、目を引く見せ場が用意されていました!
以下はネタばれになります。
これから鑑賞をご検討のかたは要注意です。
轢き逃げ犯グループに復讐を遂げ、墓地へやって来て力尽きたゾンビを、追って来た登場人物の1人が銃で撃ち殺します。実はこの男、昔ゾンビ君の父親を殺した犯人。と、突然、墓地の土中から半ミイラ化した父親ゾンビが登場。犯人を墓穴の中へ引きずり込みます。
最後に凝った造形の化け物が登場(ジャケ写でネタばれですが・・・)。
しかも観客が忘れていた父親ゾンビの復讐が完結、というのはお話としても映像的な見せ場としても、とても良い展開。観客満足度高いです。
ただ・・・そこはツボを外しまくる「ゾンビナイトメア」。
この劇的な場面でも、全体の状況が見える位置にカメラを固定、広い画の中、全部ワンカットで見せてしまいます。
地面からもぞもぞゾンビが這い出て来るのを遠目に見せられても、全然迫力ありません。
なんでちゃんと細かくカット割らないんだろう?
サイズやアングル工夫しないんだろう?
雑過ぎますよ。
最後まで期待を裏切らない手抜きぶり、底抜けぶりなのでした。
本来、86年製ゾンビ・ホラーらしい、スプラッターな見せ場たっぷりの凄い作品にも出来た内容のこの映画。
自分ならこう撮る!とか、その辺のベストな演出を想像しつつ観ると楽しいかも。
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