醜怪なゾンビ、ド派手な残酷描写、グロ演出に徹した見世物ゾンビ映画の最高峰「サンゲリア」の魅力について詳しくお話しいたします。
スポンサードリンク概要~「サンゲリア」はこんな映画!
「サンゲリア」(ZOMBI2)
1979年 イタリア 91分(日本劇場公開時)ルチオ・フルチ監督
「ゾンビ」に続け!
「サンゲリア」は「ゾンビ」のヒットにあやかろうとイタリアで製作されたゾンビ映画。「ゾンビ」の翌年に完成、公開され、本家同様こちらも世界中で大ヒットを記録。
ダリオ・アルジェント監修版「ゾンビ」のヨーロッパでの公開タイトルが「ZOMBIE」。「サンゲリア」の原題は「ZOMBI2」。最後の「E」を取ってはいるが完全に偽続編企画。ただし「ゾンビ」から拝借したのはタイトルと、伝染性のある食人ゾンビの設定のみ。現場クリエイターたちの独創性あふれるプロの仕事により、作品自体は「ゾンビ」と全く印象の異なる最高にグロテスクなエンタテインメントに仕上がった。
職人監督
監督はマカロニ・ウエスタンやジャーロ(イタリア製スリラー)などで手堅い仕事をしてきたルチオ・フルチ。刺激的な描写をこれでもかと見せ付ける演出手法で、作品を純粋なスプラッター・ホラーとして大いに盛り上げた。
白いゾンビ
また、ジャネット・デ・ロッシがクリエイトしたオリジナリティあふれるゾンビ・メイクもこの映画の大きな魅力の一つ。マイケル・ジャクソンの「スリラー」など、その後の作品のゾンビ像に大きな影響を与えた。「青いゾンビだけは絶対にやりたくなかった」と語るロッシによる、ミイラと腐乱死体の中間のような独特な質感の白いゾンビは、素焼きの植木鉢用粘土を肌に塗り付けてラテックスで仕上げるというオリジナルな手法で作り上げられた。
ストーリー
ニューヨーク湾を漂流するヨットの船底から、全身腐乱の奇怪な男が現れ警官を噛み殺す。事件の謎を追い、新聞記者のウエストとヨットのオーナーの娘アンは、アメリカ人カップル、ブライアンとスーザンのクルーザーに同乗しカリブ海のマツール島へ向かう。しかし目的地の島では、死後に甦り人を襲うという奇病が蔓延し、メナード医師が1人原因究明の研究を続けていた。
やがて、島へたどり着いた一行を墓地から甦った死者たちが襲い、スーザンが殺される。ウエストら3人は、メナード医師の診療所に立てこもり、火炎瓶を作って襲い来る死者の群れを迎え撃つ。
「サンゲリア」日本初公開当時の様子
テレビCMが話題
日本での劇場初公開は1980年5月。前年の3月には「ゾンビ」が公開されている。
まだ「ゾンビ」の衝撃が記憶に新しかった当時、非常にインパクトのある予告編がテレビで流れた。女性の眼球に鋭利な木片が迫る!そのショッキングな映像の合間にチラリと登場する不気味な連中はどうもゾンビっぽい雰囲気。その映画のタイトルは「サンゲリア」。
「ゾンビ」との差別化
イタリア本国では「ゾンビ」の続編を匂わせるタイトルで集客を狙ったこの作品。日本では逆に「ゾンビ」を連想させない宣伝戦略が取られた。配給元の東宝東和は、あくまでも二番煎じでない新しいタイプのショッカーとしてこの作品を売り込んだ。プログラムやポスターなどにゾンビの写真は殆ど無く、「ゾンビ」や「ZOMBIE」の文字も無い。原題はあくまでも「SANGUELLIA」。
劇場でも冒頭いきなりデカデカと「SANGUELLIA」のタイトル。(ちなみにビデオやDVDのタイトル前にある、メナード医師が起き上がる死体を撃つシーンは丸ごとカット)
「ゾンビ」ではなく「サング」
劇中、登場人物がちょくちょく「ゾンビ」というワードを口にしているものの、その度に字幕には「サング」の文字が。ハッキリと「ゾンビー!」って言ってるのに「サング」。
ゴールデンタイムにテレビ放映されたホラー映画特番では、眼窩にミミズが蠢く有名な腐乱ゾンビのシーンを紹介したが、番組内でもそのゾンビを「悪魔サング」と呼んでいた。
「サング」って・・・何?語源は?これをキッカケに「SANGUELLIA」という原題に疑念を抱き始めた観客も多かったのでは?もしやこれって東宝東和の造語?「惨劇」+「サスペリア」ってとこか?・・・と。(この推測、多分当たってるのでは?)
「サングリア」というカクテルの名前が由来という説もあるが、どうも後付けくさい。ただ、仮にデタラメでもこのタイトル、語感は悪くなく、目に木片が刺さる映画「サンゲリア」は巷で話題となった。
初公開当時の「サンゲリア」グッズ
飛び出す絵本?
私が公開2日目に鑑賞した東京新宿、歌舞伎町の劇場では、プログラム(250円)とポスター(200円)が売られていた。ポスターはチラシで巻かれており、両方購入すれば当時の人気コレクターズ・アイテム3点が揃った。またシネ・ショップではプレスシートも売られていた。非売品なので定価は無いが250円程度だった。記載内容はプログラムと同じだが、しっかりとした紙質の厚紙製で、飛び出す絵本形式になっているのが珍しかった。ページを開くと布で包まれた死体が起き上がる。
サントラB面曲「地獄への旅立ち」とは?
あとはオリジナル・サウンドトラック。ちなみに私は2曲入りのシングル盤レコードを購入。LPを探したものの見つからず(発売されなかったらしい)。どうせ目ぼしい曲はオープニング&エンディングの「サンゲリアのテーマ」と、ゾンビ登場シーンに決まって流れるテクノっぽいあの曲くらいなので「2曲でOK」と思い購入決定。B面曲「地獄への旅立ち」があのゾンビの曲かな?と思っていたら大ハズレ。劇中一度きりしか流れないのどかで退屈な曲だった。
「サンゲリア」テレビ放映版
いきなり深夜
テレビ初放映は1982年3月、TBS。話題作だったにもかかわらず、いきなり深夜の90分枠でのオンエア。日本語吹き替え版。主役ウエストの声は堀勝之祐。
残酷描写は執拗にカット
内容は偽原題「SANGUELLIA」で始まる日本公開版をカットしたもの。作品の売りである残酷描写は軒並み削除。話題となった眼球串刺しも当然無し。刺さる直前で次のカットへジャンプ。人肉を喰いちぎるようなカットも全てその瞬間はジャンプ。人気の高い人喰いザメ対人喰いゾンビの喰い合いは、恐らく放送時間の都合で全面カットになってしまった。また、ラストカットではエンド・ロールが上がらず、BGMもサビではない部分に差し替えられた。その直前のゾンビのアップショットも全てカットされた。
「サンゲリア」歴代映像ソフト集
スポンサードリンク先ずは輸入版
最初のビデオソフトはアメリカのウィザード・ビデオ社から発売され、日本国内でも輸入版を入手できた。ちなみに私は輸入版ショップの通販リストで「ゾンビ」を見つけ、注文したところこの「サンゲリア」が届いた。日本劇場公開時にカットされた前述の冒頭1シーンがある他、グロテスクなゾンビのアップショットが日本版より多い。またこのビデオ、日本のテレビモニターで観るとカラーバランスがズレまくりだった。
国内版LDはプレミア
国内版ビデオソフトは先ず東芝がリリース。これは劇場公開版のプリントをそのままテレシネしたもので、字幕スーパーも手書きだった。
その後SONYが完全版レーザーディスクを1000セット限定でリリース。日本語字幕入りの英語版とイタリア語版の2枚組みで18,800円。封入特典は35ミリシネスコ予告編フィルム・クリップ~つまりはポジフィルムの切れっぱしがオマケに付いてきた。私のは片目眼窩にミミズのゾンビが起き上がる途中のカット。ちなみにこのLD、完売後は1セット中古で8万から10万円ほどのプレミアが付いていた。更にSONYは1枚入りレーザーディスクも発売。やはり1000枚限定で定価は12,000円。こちらのオマケはイタリア劇場版ポスター、原寸大復刻版。
DVD
DVDはJVDから特典が予告編のみの1枚ものの初期版に続き、2005年には「サンゲリア 25周年記念スペシャルエディション」が特典ディスク付き2枚組みでリリース。予告編集や大量のスチール集の他、関係者たちへのインタビューをたっぷり収録。製作秘話、撮影裏話が大変興味深くファン必見の内容だった。
その後2009年にはキングレコードが「サンゲリア パーフェクト・コレクション」をリリース。JVD版よりインタビュー映像が大幅に減ってしまったものの、テレビ放映時の音声を使った日本語吹き替え版が収録された。
ブルーレイ
Blu-rayディスクは2014年、ハピネットから「サンゲリア 製作35周年記念HDリマスター究極版」が2枚組みでリリース。既初DVDの特典映像・音声に加え初出し特典映像も多数収録。主演イアン・マッカロックの音声解説も収められている。
また、2022年、同じくハピネットから、オリジナルネガより4Kレストアされたニューマスター版が2枚組で再発されている。特典映像は旧版と同内容だが、日本語吹き替え版が2種(TBS放映版と新録音版)収録されている。
「サンゲリア」こぼれ話
フルチ起用のいきさつ
DVD特典映像の関係者インタビューでは、監督ルチオ・フルチ起用までの経緯が複数の関係者によって語られているが、それぞれの立場で微妙に言い分が食い違っている。結局のところ、当初予定されたエンツォ・G・カステラッリが乗り気でない&ギャラが高い、ということでフルチに仕事が回って来た、ということらしい。
もう1つのラストシーン
特典映像からもうひとつ。映画冒頭、ニューヨーク湾に現れるファースト・ゾンビを演じた俳優キャプテン・ハガティのインタビューの中に興味深い話があった。国内ではLDやDVDのジャケットにも使用された、ハガティ演じる全身腐乱ゾンビが海中から海岸へ這い上がろうとしている写真。いかにも宣伝用に撮ったスチールのようだが、この映像が映画のラストシーン用にムービーカメラで撮影されていたそうなのだ。海中から現れたファースト・ゾンビが海岸へ上がりNYの街へ向かって倒れる、という内容。そのシーン、あのブルックリン大橋ゾンビ大行進の前に入る予定だったのか?あるいは大行進とは別バージョンのエンディングだったのか?ひょっとしたら、現場の思い付きで撮っただけで、ハガティが勝手にラストシーンと思い込んでいた可能性もある。
偽続編に抗議
あと、よく言われるのが、「ZOMBI2」という続編的タイトルについて、「ゾンビ」を監修したダリオ・アルジェントがルチオ・フルチに抗議した、というエピソード。フルチは「ゾンビはもともとブードゥー特有の言語だ」と反論、ブードゥー・ゾンビ映画の作品リストまで送ったそうだが、ダリオが怒ったのは「ZOMBI」よりもむしろ続編を装った「2」の部分だったのでは?なのでこの回答では「じゃあ、一体何の続編のつもりなのよ?」という疑念は払拭できていない。
ポスターの女は誰?
ゾンビのゾの字も出さなかった「サンゲリア」日本版のポスターやチラシで、アートワークの中心に使われている女性の写真は、なぜか「サスペリア」からのワンシーン。ちなみにこの女性「サスペリア」のラストでゾンビ化する脇役の人。
「サンゲリア」 ~ 商魂と職人技が産み出した傑作
凄いものを見せる!
同じ「死人が人を喰う」というあり得ない話を描いていても、ロメロの「ゾンビ」は極限下での人間の生き様をしっかりと描いて見せ、更には大量消費社会へのアンチテーゼにもなっている社会派。
対してフルチの描き出す人喰いゾンビ祭りは、とにかく観客に凄いものを見せる、という点に特化した純然たる残酷エンターテインメント。凄まじい映像をこれでもか!と見せ付けるその演出は純粋で潔い。
本来、ホラー映画は見世物。遊園地のお化け屋敷感覚なのが楽しい。
「どうですかお客さん!」という職人フルチの自信あふれる声が聞こえてきそうである。
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