80年代のB級ゾンビ映画「吸精鬼」の見どころを解説します!
全く動かない人形のようなゾンビが、
ひたすらグイグイすり寄って来るだけの変なゾンビ映画、
直立不動なゾンビのハリボテ感、スタッフに持ち運ばれてる感が凄いです。
ざっくり解説「吸精鬼」はこんな映画
「吸精鬼」(原題・ONE DARK NIGHT)
1983年 アメリカ 94分(日本版VHS収録時間)
監督 トム・マクローリン
主演 メグ・ティリー
念力で甦えらされた死人の群れが、全身硬直状態のまま襲い掛かる!
・・・と言うか、ズンズン迫って来てひたすら密着して来る!
それだけ!
ゾンビメイクを施した役者を使わず、
別の作品用の動かない死体ダミーを再利用して撮られた、
地球にやさしいゾンビ映画です!
B級感溢れる超変わり種。
「吸精鬼」ストーリー
女子グループ内の肝だめしと称したいじめに遭い、
霊園の遺体安置所内で1人夜明かしするハメになった主人公の女子高生。
その場所には、強力な超能力者の遺体も安置されていた。
死後も消えない超能力者の力で安置所中の死体が次々に起き上がり、
女子高生とその恋人、いじめっ子の女子らにグイグイと迫ります。
「吸精鬼」ここが見どころ!
スリリングで興味深い導入部
導入部だけはミステリアスで何やら凄そうな滑り出しですよ。
酷く荒れたアパートの一室。
壁には皿などが深々と突き刺さっている。
クローゼットには若い男女数人の死体が折り重なるようにして溢れている。
その断末魔の形相。
そして傍らに横たわる老人の死体。
警察がその遺体を運び出そうとすると、
突然指先から激しく放電し、電撃が天井を突き破る。
一体この部屋で何が起こったのか!?
・・・って感じ。
なんか凄そうでしょ。
複雑な背景は全部セリフで説明
で、何が起こったのかなんですが、すぐに判明してしまいます。
死んだ電撃老人の娘のもとへオカルト雑誌の記者が訪ねて来て、
いろいろ複雑な全真相をセリフで丁寧に説明してくれます。
なんて無駄の無い展開!
・・・なのか?
何でも死んだ老人は超能力者で、
他人の生体エネルギーを奪うことが出来たのですと。
で、娼婦とかを騙して誘っては、
エネルギーを奪って殺してたのだそうです。
若者たちもそれで死んだんですね。
記者は更に「続きはコチラから」、
と録音テープを置いて行きまして、
追加情報として、
〇 老人は動物の死体を超能力で動かせた
〇 エネルギーが鏡に反射して部屋が壊れたことがある
という、何やら伏線的な事実も説明してくれます。
ということで、
かなり複雑な裏事情が会話シーンと録音を聴いているシーンで全て説明されます。
そこ描いて見せた方が面白かったのでは?
と思ってしまいますが、
この映画、そこはスルーしまして、
「女の子が遺体安置所で肝だめし中に怖い思いをする」
という、80年代によく見かけた普通のティーンホラーを目指すのでした。
気持ち悪い!でも動かない!変なゾンビの正体!
で、映画後半の舞台は霊園の納骨堂的な建物内。
「ファンタズム」でよく出て来るような場所ですね。
ここで可愛いヒロインと意地悪な先輩女子、
助けに来たヒロインの彼氏らが、
超能力者老人の死体が操るゾンビに襲われるんですが、
このゾンビがほんと動かないの。
どう見てもお人形。
直立不動な感じで直進して来ます。
スタッフに運ばれてる感がもの凄い!
フレームの死角で苦労してる助監督の姿が目に浮かんじゃって・・・
何人かで同時に襲って来たりもするんですが、
台車の上に並べられてるのがモロ判ってしまいます。
なのでゾンビの全身が映し出されることはありません。
支えてる助監督まで写っちゃいますからね。
トビー・フーパー監督「ポルターガイスト」のクライマックスに登場する大量の死体。
あのダミーをゾンビに見立てて再利用してるんですが、
もともと動くようには作られていませんからね。
もう、ハリボテ感が凄いですよ。
意地悪な先輩女子が殺されるんですが、
ゾンビさんたち、噛み付いたり出来ませんからね。
口、開きませんから。
なのでグイグイ迫って来て(助監督が押し付けている)、
上に乗っかって来て圧死させる作戦。
ただ致命的なのはこのゾンビ(と言うか人形)、
凄く軽そうなんですよ。
何体も何体も乗っかって来るんですが、ちっとも重そうに見えない。
これで圧死は厳しいです。
一応、ラスボス的存在の超能力老人の死体と、最初に甦るもう一体だけは、
目蓋を開けられるように改良されてますね。
更に超能力老人ゾンビは手も動くんですが、
角度的にどう見ても、人形の後ろに誰かいる二人羽織り状態なので笑えます。
特殊メイクの見せ場もあり!少しだけど
そんなリサイクル・ゾンビ映画な本作ですが、
特殊メイク担当は「魔鬼雨」のトム・バーマン師匠。
なので少ないものの、見せ場も用意されています。
ゾンビの顔を掴むと、
皮膚がベロンとめくれて髑髏が剥き出しになったり、
「レイダーズ」のクライマックスにあるような、
顔面の溶解もあります。
溶けて崩れる様をかなり丁寧に見せてくれます。
この辺はいかにもアナログ特撮、といった感じで80年代の味わいですね。
B級ゾンビ映画認定!
そもそも「B級」ってくくり、何なんですかね?
明確な線引きなんて無いですよね。
もともとはアメリカ映画界の用語で、
大作映画の二本立て添え物用に作られる、
90分以下の短期即製、低予算映画を指してました。
今はメジャー作品ではない低予算映画を何となくB級扱いしてる感じですね。
ホラー・ジャンルにおいては、
本来の意味のような格下というマイナーなイメージも既にないですね。
B級=堅苦しくなく楽しい、みたいな。
で、ゾンビ映画でB級と言えば・・・
なんかほとんどがB級扱いになっちゃいそうだし、
実際ゾンビものというだけでB級扱いされてた時代もありました。
神が作った王道中の王道「ゾンビ」でさえも、
ゲテモノ扱いしたり、低評価を付けた日本の評論家とか普通にいましたからね。
日本の有名映画雑誌の中にも、
「ゾンビの発生を描かないから絵空事になる」
なんて言った恥ずかしい評論家先生もいました。
なのでゾンビ映画におけるB級って何なのか?と考えると・・・
肝であるゾンビをちゃんとしないで何とかしようとしている、
そんな映画じゃないですかね。
歩く死体も、最近では狂暴な感染者も、
ノロノロ歩きも全力疾走も、
皆ゾンビをちゃんと見せようと頑張ってるわけですよ。
ゾンビ映画はゾンビが命。
なのに・・・
死体のダミーがいっぱいあるから、これゾンビに見立てて何とか映画1本作っちゃおう。
そんなエド・ウッド的な発想で作られたであろうこの「吸精鬼」。
これこそB級認定、ってことで良ろしいんじゃないでしょうか。
それにしても、
ラスボスの老人ゾンビくらい、人間の役者に特殊メイクすれば良かったのに。
それで印象は大きく変わったと思います。
エキストラ1人のギャラくらいいくらでもない筈。
映画のキーとなる元凶なのに、あくまでも借り物の人形再利用にこだわる。
なんてエコな映画!
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